256試作レスに向けて

 「GRヤリスに怪物エンジン、実は造り方がすごくてほぼ試作レス」といった記事が、日経XTECHに掲載されていました。概要は次の通りです。

 新エンジンの設計で特筆したいのは、ほとんどモデルベース開発(MBD)だけを用いて、多くの設計諸元の最適解を導き出したことだ。試作レスと言える水準のよう。従来はMBDを活用するものの、試作が残っていた。

 例えば、吸気ポート形状とバルブ径は、耐ノッキング性の向上と、出力向上に寄与する吸気流量の増大を両立するため、数値流体力学(CFD)の解析で決めたという。具体的にはタンブル流の強度と吸排気バルブ径の最適値を見い出し、燃焼速度を上げた。

 ~中略~ 燃料噴射系はデンソー製で、「D4-ST」と呼ばれる過給エンジン用にポート噴射と筒内直噴の2つのインジェクターを併用したデュアル噴射構成としている。05年発売のレクサス車に搭載した「2GR-FSE」エンジンに世界で初めて採用された技術だ。燃料噴射圧はそれぞれ0.5MPa、20MPaと一般的だが、このうち直噴インジェクターのマルチホールの噴孔形状を最適化することにより、タンブル(縦渦)強度をさらに高めるために気流をアシストすることにも活用しているようだ。また、混合気のミキシング向上などのために、主に低回転では筒内直噴でマルチ噴射制御も採用しているという。

 日経XTECH 2020.11.25 より

 トヨタでは、過去に開発して実績のあるエンジンの技術要素をモデル化し、今回の新型エンジンの開発において、各要素のモデルを組み合わせ、シミュレーションで最適解を導き出したということです。その結果、通常膨大な時間と費用が伴う試作を行わなくても、予定通りの性能を出すことができたということだと思います。特に、流体や伝熱などのエンジン特有の動特性に伴うモデルの実用化を成し遂げた点が素晴らしいと思います。

 汎用ロボットにおいても、同様なことが言えると思います。ロボットアームの各関節の動特性をモデル化し、その関節を組み合わせたアームの動特性をモデル化することができれば新規ロボット設備の開発期間や、そのロボットを使った動作プログラミング期間を大幅に短縮できると思います。

 現行のロボットシミュレータでは動特性までモデル化されていないため、実機で問題になる振動特性を表現することができません。シミュレーションと実機による位置ズレについてはカメラなどを使って補正することができます。しかし、ロボットアームが停止時に残留振動を持っていると、その振動が収まるまでカメラ補正ができず、予定のサイクルタイムをオーバーしてしまいます。動特性を含めてモデル化することで、振動も考慮して最適な移動経路、加速、速度を選択してロボットの動作プログラムを組むことができると思います。

 物理現象を全てモデル化することは難しいと思いますが、過去に実績のあった機構要素をモデル化する価値は十分あると思います。

SHIMAMURA ENGINEERING OFFICE

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